ヒット商品の創出研究
異分野との連携による商品開発プロセス確立の研究
濱名直美・豊田修身・阿部優・坂本晃・大谷健一・北浦陽子
*大分県竹工芸・訓練支援センター・*株式会社ヨーガンレール
Research for producing the hit product
Research of product development process establishment by cooperation with different type of business
Naomi HAMANA・Osami TOYODA・Masaru ABE・Akira SAKAMOTO・Kenichi OTANI・Yoko KITAURA*
Oita Prefectural Bamboo Craft and Training Support Center・*Jurgen Lehl Co., Ltd.
要 旨
竹細工という伝統的文化的技術要素を,生活に付加価値を求める時代の要求と結びつけ,新分野での商品化開発・ 市場開拓に取組むため,協業による2つの商品化手法に取組んだ.一つは,付加価値を追求する異分野産業における 竹細工技術のニーズを掘り起し,産地技術者との間を橋渡しして,互いの開発状況を共有しながら新しい市場におけ る商品化に取組んだ.もう一方は,地域の観光産業と連携して,地域におけるイベントや観光事業を対象としたモニ タリング調査を実施し,商品化提案と実際のイベントでの検証,製品のリデザインを行なった.結果,この2つの開 発アプローチにおいて,社会の高度化・専門化するニーズに対して柔軟に対応できる,継続的な開発体制の基礎が構 築できた.
1. はじめに
大分県の顔の一つであり,歴史的地域的な背景から別 府を中心に全国一の集積を見せる竹工芸産業は,昭和54 年に国から伝統的工芸品指定を受け各種の振興が図られ ているが,市場での価格競争においては海外製品との競 合等により大変厳しい状況にある.また,時代と共に高 度化する社会のニーズの中で,市場分野や商品は多様化 しており,従来の流通システムに合わせた商品化開発だけ では対応できなくなっている.
一方で,工業製品等の輸出主力産業においても,台頭 するアジア製品との差別化が必須となり,商品化開発の 中で日本固有の要素を用いて付加価値を高める試みが行 われている.そんな中で国内の伝統工芸が持つ固有の技 術や,文化的背景の活用に高い期待が寄せられている.
また,国内各地の伝統的工芸品産地においては,諸外 国の個々のニーズに基づき開発されたブランド戦略によ る積極的な海外展開や,付加価値を追求する異分野産業 との協業による市場開拓の探求などの戦略的なマーケ ティングや,モニタリング調査による市場ニーズの検証も 欠かせないものとなっている.
こうした社会の動きの中,工芸という伝統的文化的技 術要素を,生活に付加価値を求める時代の要求と結びつ け,新分野での商品化開発・市場開拓に取組むことは業 界共通の課題としても,また社会的要求としてもその必
要性が高まっている.
その具体化のために,市場動向と密接に連携し,高度 化・専門化するニーズに対して個々に且つ柔軟に対応する 協業体制の構築にまず取組んだ.
2. 方法
高度化する社会のニーズに基づいた意匠開発を基本 に,新たな市場における商品化と需要開拓のプロセスを 支援していくことが重要である.
本研究では,2つの開発アプローチ(Fig. 1)を行な い,それぞれの比較的緩やかな協業体制による商品化に 取組んだ.
一つは,伝統工芸技術を活用したいと望む異分野産業 の需要をもとに,伝統工芸技術者と異分野産業とを橋渡 しして,商品の開発プロセスを支援する即応的な意匠開 発と商品化の支援を行なった.具体的には,企業デザイ
Fig. 1 2つの開発アプローチ
ファッション
ブランド 技術者
開発アプローチ:ルート A プラン ファッションブランドと竹のコラボレーションによる市場開拓
○ファッションブランドと産地技術者を結ぶ ・竹細工技術のアプローチによる新しい商品開発プラン ・新しい素材の応用、技術開発、技術修得 ・時代に応じた商品の位置づけと商品イメージを共有
観光領域
開拓 地域観光 モニター 開発の橋渡し
ファッションブランドメーカとのコラボレーションと 技術者のキャラクターを活かしたブランド開発
開発アプローチ:ルート B プラン 地元観光産業を対象とした竹製品のニーズ開拓
○地元観光での取組みと竹製品(技術者)を結ぶ ・観光産業との連携による竹製品活用のニーズ掘り起こし ・モニタリング手法による開発品検証とリデザイン ・ストーリーある体験型観光の提案
商品化
ナーに対し,産地の伝統的編組技術がどんな分野に応用 できるかニーズを掘り起こすアプローチを行ない,また 意匠開発の可能性を検討してもらうために企業担当者を 客員研究員として招聘した.別府竹細工を中心に県内の 伝統工芸技術者の持つ多彩な技術力や市場の潜在力につ いて,フィールドワーク調査を実施しながら,さらに企業 担当者が得た情報も併せて企業デザイナーが商品開発プ ランを検討した(開発アプローチA:ファッションブラン ドと竹のコラボレーションによる市場開拓).
もう一つは,地元観光産業を対象とした竹製品のニー ズ開拓として,観光関連団体の協力を得てモニターを募 り,地元における竹製品活用のニーズの掘り起し及び観 光アイテム・地域的文化的生活関連商品としてのストー リー作りに取組んだ.具体的には,地域で取組まれてい るイベントや観光事業における竹製品の活用と商品化に ついて,モニターを通して(1期につき5∼10人程度) ニーズをサンプリングし(17年度は3テーマに添って3 期実施),同時に観光産業やサービス業の専門家との意 見を交わして観光に焦点を絞った開発領域を検討した. これをもとに伝統工芸技術者のキャラクターを活かして 意匠開発に取組み,実際のイベントでの検証,更なるモ ニタリングを経て,地域の観光シーンに合う商品化と体 験型観光の関わり方の可能性を探った(開発アプローチ B:地元観光産業を対象とした竹製品のニーズ開拓) .
3. 結果
3.1 ファッションブランドと産地技術者を結ぶ
産地技術力を企業デザイナーに提示してニーズの掘り起 しをした結果,19件のデザインプランが提案され,内10 件については商品化へと進行した(Fig. 2).
これら企業デザイナーの商品開発プランの一つ一つは これまでにないアイデアであったため,これを受けた産 地技術者は新たに素材を見つけ出すことから始めたり, 成形のための新たな技術を修得したり,それに伴う技術 開発の検証のための幾度かの試作に取組むこととなっ た.しかし試作開発費用については企業側から全額提供 されたので,スムースに開発に取り組むことが出来た.
客員研究員として招聘した企業担当者と産地技術者は, 直接的な検討の場においてデザイナーの意図を理解した り,ファッションブランドの市場における商品の位置付 けや,エンドユーザーの生活における利用イメージの共有 を図り,開発条件の洗い出しを繰り返し行なって,着実 に商品化プロセスを進んでいる(Fig. 3).
フィールドワーク調査により企業の担当者自身が,別 府竹細工の多様な技術と製品を間近で見て,手掛けた技 術者と直接コミュニケーションを取ることが出来た為, 素材加工の状況や技術の裏付けと,企業デザイナーと産 地技術者の考えを共有する事ができた.また産地技術者 としては,従来のビジネスとの比較において企業側との 価格の捉え方に差を感じたこともあるが,時代に応じた 変化に敏感な企業デザイナーとの開発を通して,通常では 得られない刺激と工夫と思考を経験することができた.
さらに企業の企画展示会において,竹の素材感と作家 性の高い竹細工技術を活かすためとして,新たに造形作 家とのコーディネイトの機会も得ることができた.企業 デザイナーから企画展参加の要請があったことは,産地 技術者の作り手としての個々の開発力や作品性,ものづ くりの発想力等に期待をかけていることの表れである. 結果,この開発アプローチの技術コーディネイトの成果 をまとめると,開発参加技術者5名,企画展参加造形作 家3名となった(Fig. 4).
Fig. 2 19件のデザインプラン
Fig. 4 開発アプローチAの成果
異分野産業におけるニーズの掘り起し
デザインプラン総数 19件
商品化開発件数 10件
異分野産業に対する技術のコーディネイト
開発参加技術者 5名
企画展参加造形作家 3名
3.2 地元観光産業を対象とした竹製品のニーズ開拓
別府で行なわれているイベントや様々な観光事業を対 象に,別府の観光シーンと関連したアイテムを商品化する 3つのプランを立て,ニーズ開拓に取組んだ(Fig. 5).
これらのモニタリング調査では,モニター及び専門家 から,手に取ったときの印象や実際の使用感,商品とし ての価格イメージを聞取り調査した.イベントや観光事 業の利用者をモニターにした場合は,商品のあり方や パッケージ,売り方のアイデアを得ることができた.
1期目の調査では,当初 16年度開発品のコンパクトな iPodminiケースを提示したが,調査によりユーザが少な く市場規模が狭くても,クラッシック愛好家は大容量 HDDを持つ機器仕様を好むというニーズが表出したため サイズを再検討した.また籠の側面内部に精密機器を ホールドする仕組みを追加するリデザインを行なった.
2期目のワインパニエは,過去開発したワイン関連試 作品から調査をスタートしたが,ボトルの太さや接客時 のマナーによって求められる機能の違いが明らかとな り,ソムリエのアドバイスのもと,新たな意匠開発を行 なった.ターゲットとしたセミナーの開催時期(11月) にテーマのワインを適切にコーディネイトできる安定感 のあるパニエを提示した.結果,モニターからは「竹製 品という素材感とテーマを持ったテーブルコーディネイト を楽しむことができた」との意見があった.併せて,過
去開発したテーブルウェア品約30点をテーブルコーディネ イトし,それらの生活へのコーディネイトイメージと使 用感についても調査した.
3期目に開発した湯かごでは,体験イベントに参加す る温泉通集団と,普段の日常的に地元温泉に通う市民モ ニターと,2タイプのニーズを調査した(Fig. 6).結 果,前者は湯巡り仕様の道具をコレクションする傾向か ら「コンパクトに道具をまとめて持ち運べる」「温泉を 利用するときに地域らしさや素材の自然感を感じられて 良い」という意見や「足高であるので湯がかかりにく い」という機能性についても良い評価を得た.一方,毎 日の生活で温泉を利用する市民モニターからは,持ち運 ぶ物の数と量からサイズについての要望や「自然素材の ためカビが心配」との利用しにくさを感じる意見も出 た.そして,モニターの意見をもとに,この湯かごの特 徴である脚の改良を行った.
4. 考察
ファッションブランドと産地技術者を直接結ぶ取組み では,竹の素材感や技術に関心のある企業デザイナーの 需要を更に高めるためには,技術要素のアピールときめ 細やかなアプローチは欠かせない.企業デザイナーの開 発プランの実行は,従来とは異なる開発力を要するが, これに対し,ブランドの市場感覚,つまりエンドユーザ が抱く企業への注目度や企業ショールームにおけるニー ズの情報を得ることが出来たため,竹製品の新たな開発 の視点を切り開くことができたと考える.この協業によ る開発は,生産側の価値観に留まることなく,市場のそ の先のエンドユーザの満足感につながる明確なビジネス の視点も磨くことが出来ると考えるが,生産側とユーザ 側が持つ値ごろ感の格差を解消するブランディングの課 題を感じた.
一方のモニタリング調査による地域観光市場と産地技 術者を結ぶ協働体制的な取組みでは,地元観光産業関係 者とじっくり話をすることで,地域観光ビジネスにおい て竹細工技術者の登用や竹素材製品の活用に関心を持っ てもらうことができ,観光やサービスにおける視点から 新しいアイデアを受ける事が出来た.しかし,観光動態 を観察し,そこから見える要望から,商品としての根拠 を抽出するまでには時間がかかるため,開発スピードは 緩やかになる.このことから,モニタリング調査では効 率性を求めず,協働体制の信頼関係を育てる中で地域的 文化的な生活関連商品として,また体験型観光商品とし て,如何にストーリーを作っていくかというプロモー ションプロセスが重要な課題と感じた.
Fig. 6 モニタリング手法の意匠開発の一例
湯かごデザイン イメージマップ
洗面器の中に入 るコンパクトサ イズ
高足タイプな ので下に石鹸 箱が置ける 湯かごには シャンプー, 湯温計など [湯かご+石鹸箱+洗面器]の三点セット
1. 湯船のそばまで持込み
2. 帰りは水でさっと洗い流し
高足タイプで洗い場 に持ち込んでも 中に湯が入らない
スタンダード版
モニター使用例
対 象 試料品
1期目 音楽祭をモチーフに,音楽に因んだアイテム
(平成16年度研究で取組んだ小振りな開発品) iPodケース
2期目 体験型観光事業からソムリエによるワインセミナー パニエ
3期目 市内多数の温泉を巡る温泉修行になぞらえて時間と共に色 が変化する青竹を用いたアイテム
湯かご
5. 今後の展開
ファッションブランド企業との協業においては,現在 進行中の商品開発プランを確実に商品として市場に出す ことが目的である.中には今年度末に取りかかり始めた 開発プランもあり,引き続き企業と産地技術者の商品化 開発を支援し,さらに別府竹細工の技術のブランド化, そして対ビジネスにおいてブランド戦略を研究して,竹細 工産地としての情報発信の取組みに役立てる.
もう一つの開発アプローチである地域の観光産業との 協働では,地域の文化的な環境づくりも念頭に,観光に おける竹細工に親しむ機会や場をさらに検討し,産地技 術者の技術ブランドの活用提案を行なう.
また,意匠開発プロセスとブランド戦略の確立は,密 接にリンクしており片方だけでは成立しない.17年度当 研究と平行して取り組んだ別府竹製品協同組合の海外展 開研究会の支援を含め,2年目のテーマ「マーケティング 手法による開発プロセスと技術ブランド定着化フォロー アップ手法の確立の研究」において,プロモーション手 法の展開と検証に取り組む事とする.
その目的を達成するプロセスの一つとして,17年度実 施した海外視察の成果をWebでの情報発信に取り込む手 法の実験を行い,別府竹細工の技術ブランドのプロモー ション効果の検証と,ブランド戦略の確立を行う.そし て,産地技術を必要とする異分野との関係を築くため, また高度化・専門化する社会ニーズに対応するため,こ れらのプロセス研究を通して技術領域の情報化に取組 み, 別府竹細工らしさを際立てる技術ブランディングの 手法研究に発展させる.